唾液の分泌が低下し、お口が乾燥するドライマウス(口腔乾燥症)。
口腔粘膜の乾燥による不快な症状でお悩みの方の数は、年々増加しています。 ドライマウスになると虫歯や歯周病、口臭などのリスクも増し、クオリティー・オブ・ライフ(生活の質)が、大きく低下してしまいます。
唾液の分泌が低下し、お口が乾燥するドライマウス(口腔乾燥症)。
口腔粘膜の乾燥による不快な症状でお悩みの方の数は、年々増加しています。 ドライマウスになると虫歯や歯周病、口臭などのリスクも増し、クオリティー・オブ・ライフ(生活の質)が、大きく低下してしまいます。
ドライマウス(口腔乾燥症)とは、さまざまな原因で唾液が減少・欠乏する症状のことです。
唾液が減少すると、初めは、お口の中がねばついたり、やたらと乾燥する程度の症状ですが、ひどくなると唇にひび割れが起きたり、舌がひりひりしたりして、口の中全体に潤いがなくなっていきます。やがては、舌や口腔内に炎症や白斑が現れ、ひび割れや出血が起こる程に進行することもあります。
症状がすすむと、乾燥がひどいせいで食事を取ることもうまくできず、話すこともおっくうになる。 乾きによる不快感で夜、熟睡することができなくなる。乾燥によるヒリヒリ感を通り越して、口腔内に焼け付くような痛みを感じるなど。――さまざまなつらい症状がおきてしまいます。
また唾液には、お口やのどに潤いを与えるだけでなく、食べかすや雑菌を流す作用や、抗菌作用もあります。
そのため唾液が不足すると、口腔内の雑菌が繁殖しやすくなり、さまざまなお口のトラブルの原因となります。 虫歯や歯周病になりやすくなり、悪臭を発する雑菌の繁殖のせいで口臭が生じます。(ドライマウス型口臭)
「口が渇く」「口の中に不快感がある」といった、口腔内の違和感を持っていらっしゃる方は意外に多いのではないでしょうか。
日本では、潜在的に800万~3000万人程度のドライマウスやドライマウスに関連した症状の方、あるいはドライマウス予備軍の方がいると推定されています。
ヨーロッパの歯科学会(European Association of Oral Medical)によって、人口の10人に1人がドライマウスを発症しているという報告が発表され、その他の論文では、軽度な症状も含めると4人に1人がドライマウス症候群に含まれるとの報告も見受けられました。
唾液には、潤滑、保湿、消化、浄化、抗菌作用、味覚、傷の修復促進などの役割があるため、不足すると様々な症状があらわれます。
唾液や細胞からの浸出液は、殺菌成分や静菌成分を持ち、人体にとって有害な微生物から身を守り、口の中を健康な状態にコントロールしています。
しかしドライマウスになると、唾液分泌が減り、粘膜からの細胞は無防備に外敵にさらされてしまいます。 そのため、歯周病、虫歯、口内炎などの粘膜疾患、口臭や味覚異常、嚥下障害といった症状が生じやすくなります。
ドライマウスの患者さんの中には、口の中に痛みを感じる方も少なくありません。
唾液はいわゆる潤滑油としての役目も果たしているので、不足すると口腔粘膜同士や、歯、入れ歯、食物と粘膜が擦れて、痛みを生じたりします。
さらにドライマウスが常態化すると、口腔内からのどの奥、さらには食道へと粘膜のガードが働きにくくなる状態が広がり、食道から胃の上部消化管の炎症も誘発していきます。
また、ドライマウスの6~7割が口腔カンジダ症を併発し、それが粘膜の痛みの原因になっていることもわかっています。(鶴見大学歯学部付属病院ドライマウス専門外来のデータより。) 口腔内のカンジダ菌の数を測定すると、粘膜の痛みと強い相関関係が認められます。
口角炎や口唇炎も口腔カンジダ症の患者さんによく見受けられる症状です。 ドライマウスの方が口腔カンジダ症を併発している場合、粘膜が白く肥厚する肥厚性カンジダ症は少なく、平滑舌といわれる舌の表面のざらざらがなくなって腫れた状態や赤い斑点が出現する紅斑性カンジダ症が多くみられます。
ドライマウスの症状は、極めて軽微なものから重篤なものまで、多様にわたり、原因も実にさまざまです。
シェーグレン症候群、薬の副作用、ストレス、心理的不安、経年的体質変化、老化、更年期障害、糖尿病や腎疾患等内科領域(内分泌系、循環器系、代謝系の疾患)、その他婦人科、耳鼻咽頭科、心療内科、眼科、整形外科などにわたる様々な原因が考えられます。
ドライマウスの著明な原因の一つにシェーグレン症候群があります。
シェーグレン症候群は膠原病の一種で、自己免疫疾患により唾液線や涙腺が自己のリンパ球によって攻撃され壊れていくという病気です。厚生労働省では、シェーグレン症候群の患者数を約50万人と推測しています。しかし実際に、認定された患者数は現在7万5000人にすぎません。
つまり残る40万人以上の方が、シェーグレン症候群でありながら認定されていないのが現状です。例えば、東京都が指定する難病にもなっているように認定を受けることにより自治体によっては治療費が免除されたりします。 もし、自分の口の渇きが気になるなら、なるべく早く歯科医院で相談されたほうがよいでしょう。
シェーグレン症候群の鑑別の一つには、「シルマーテスト」と呼ばれる検査が行われます。唾液や涙の分泌量を測定し、唾液線や涙腺の働きや関連性を調べるのです。
「シルマーテスト」は健康保険で対応できます。ただし、シェーグレン症候群の正確な鑑別、診断には、唾液線の一部を採取し、組織検査を行う必要があるので、受診した歯科医院から大学病院や総合病院の口腔外科へ紹介してもらうのが良いでしょう。
ちなみに鶴見大学歯学部付属病院ドライマウス外来、過去15年のデータによると、口の渇きを訴えてドライマウス外来を受診される方の6%がシェーグレン症候群でした。
内臓疾患の方も、ドライマウスの症状を訴えられる場合があります。例えば、糖尿病の患者さんの多くは口の渇きを訴えます。
腎不全の患者さんは、弱まった腎臓への負担を減らすため、1日の水分の摂取量を制限されています。 そのため口の中も水分が不足しがちで、喉やお口の乾燥に悩まれる場合があります。
また、泌尿器科へ通院される患者さんの中には、年間80万人にのぼる方が頻尿や尿失禁の薬を処方されています。これらの薬には、主な副作用として口渇が明記されていたりします。
心療内科や精神科で処方される精神安定剤や睡眠導入剤のいくつかは、かなりの高い割合でドライマウスを誘発する可能性があります。
ドライマウスの原因となりうる主な薬剤
このように、内科、精神科、耳鼻咽喉科等で処方される薬剤の中には、ドライマウスを誘発するものが多々あります。
ご高齢の方の中には、多量の薬剤を処方されていて、薬の副作用であることの自覚なくドライマウスの症状が進行し、口の中の不快感に悩まされている方も大勢いらっしゃるはずです。
心当たりのある方は、主治医の先生に口の渇きを相談してみてはいかがでしょうか。
ストレスや心理的不安、それ自体がドライマウスを引き起こすこともあります。唾液線は副交感神経によってコントロールされているため、緊張やストレスが過度に加わった状態になると、唾液の分泌が急速に低下するためです。
空き時間に軽く体を動かす等の気分転換を行ったりして、なるべく緊張感をやわらげ、リラックスしたゆとりある時間を増やせるよう心がけて下さい。
ドライマウス症状を改善するためにご自分で行える事には、下記のようなものがあげられます。
唾液線の分泌は、周囲の筋肉の収縮によって促されます。唾液線の周囲以外でも、口腔内や顎の周辺の筋肉が衰えてくると、おのずと唾液の量も減ってきます。
お口や顎の筋肉を衰えさせず、唾液の分泌を増やすには、咀嚼の回数を増やすことがおすすめです。 咀嚼の回数が減少すればするほど、それに比例して顎の筋肉も衰えてきます。
平均的な成人の1日の咀嚼回数は1~2万回です。年々その回数は減っていると言われています。 そして年齢とともに咀嚼時間、咀嚼回数は減少してゆく傾向があります。
顎の筋肉の衰えは、唾液の分泌量の低下だけでなく、顔の表情筋の衰えに連動します。 そのため、口角は下がり、ほうれい線は深く刻み込まれ、顔貌の老化を引き起こします。
逆に咀嚼回数を増やすことは、顎の筋肉を健康に保ち、唾液の分泌を促進し、表情筋の筋力を維持させ、若々しい顔貌を長く保たせることにつながります。
よく噛むだけでなく、唾液線やその周囲の組織の血行を促し新陳代謝を向上させるために、舌や顎の筋肉に適度に負荷をかけ、舌のストレッチを行うことで唾液の分泌を促すようにする口腔内の運動も、日常の習慣に取り入れると良いでしょう。
ドライマウスに対する対処法の一つに口腔のトレーニングとして筋機能療法があります。これは口の周りの筋肉を動かすことで、唾液線の機能を高めるという、ドライマウスに対する治療法です。
これと同様な効果が「歌唱」によって促されるという結果が、2014年、鶴見大学歯学部病理学講座の研究によって、論文として発表されました。
口の周りの筋肉を動かす「歌唱」は、唾液の促進を促す口筋機能療法として機能します。
しかも、慢性的、持続的な心理的ストレスからドライマウスが誘発されるケースが増加する傾向にある中、歌唱によるストレスホルモンの減少や、感情、気分の改善は、ストレス性ドライマウスの対処法としては、極めて有効と考えられます。
次に、歯みがき粉やマウスウォッシュの選び方についてです。 洗口剤には殺菌作用を高めるためにアルコール分が含まれているものがありますが、お口がより乾く原因となるので避けて下さい。低刺激で、保湿成分の入ったものがおすすめです。
セルフケアを行っていただくことで、お口の乾燥症状がやわらいでくると思いますが、 病気や薬剤の影響など、乾燥の度合いが強く我慢ができない場合は、どうぞご相談下さい。
ドライマウスには、口腔が乾燥しているという症状では同じものの、その成り立ちは、唾液腺の気質的変化よるもの、ストレスや薬の副作用によるもの、全身性または代謝によるものなど、さまざまな要因が含まれています。 歯科では主に、口腔の乾燥状態の緩和を目的とした口腔ケアを行っております。
カンジダ症を発症しているドライマウスの方の治療には、抗真菌薬の投与が第一選択になります。 口腔カンジダ症の治療には、アゾール系やポリエン系の抗真菌薬の液材やゲル剤(ゼリー状の薬剤)を処方します。ドライマウスの方には、フロリードゲルが口腔内での滞留時間も長く、保湿効果があり、乾燥感も緩和することもでき、おすすめです。
使い方としては、食後と就寝前の1日4回、歯磨き後に舌の上にチューブから出したゲル剤を乗せ、舌を使って口の中にまんべんなく塗り込みます。ゲルが徐々に溶けて、口腔内に広がり、効果を発揮します。
その他、ドライマウスの方にはy-PGA(ポリグルタミン酸)の配合されたマウススプレーが効果的です。 y-PGAは、保湿作用があるだけでなく、持続的に唾液分泌を促進する効果があります。
y-PGA(ポリグルタミン酸)とは
y-PGAは、納豆のネバネバ部分から抽出されたアミノ酸の一種で、食品添加物としてパンやケーキ、麺類など、様々な用途に用いられています。保水機能に優れ、天然の保湿因子を増加させ、唾液の分泌にもとても有効です。
シェーグレン症候群の患者さんの重篤なドライマウスには、内服薬としてエボザックを処方します。 服用することにより、胃腸で吸収され即効的に唾液線のムスカリン受容体を刺激し、唾液促進作用を促します。
口腔乾燥の緩和を目的とする処置としては、口腔内の湿度を保持する為のマウスピース状のモイスチャートレーの製作や、医薬品の人口唾液、サリベートエアゾール(スプレー式)の処方なども行っております。
その他口腔乾燥ケア用品として、ヒアルロン酸(保湿成分)や、ホエイタンパク(保湿成分)、ラクトフェリン(酵素)、ラクトパーオキシダーゼ(酵素)、リゾチーム(酵素)、オバールゲンCA(湿潤成分)、ジグリセリン(湿潤成分)、ヒトオリゴペプチド(湿潤成分)、アロエベラ(湿潤成分)等を配合したジェルやスプレー、洗口液もあります。
当院では、ドライマウスの方に適した歯みがき、洗口剤、口腔内に塗布するジェルを取り扱いの他、 唾液の分泌を促す口腔マッサージも行っておりますので、ご希望の方はお気軽にお申し出ください。
当医院の院長は、ドライマウスについて、日々、研鑽を積んでおります。お口の中が粘つく、乾燥する、口臭がきついなど、ドライマウスと思われる症状が気になる場合は、ささいな症状でも、どうぞお気軽にご相談下さい。